第1回政策検討委員会におけるやりとり(ビジネス日本語教育関連の質問に 対する回答)

政府 日本語 教育

前回のブログの続きです。


まずは当日、委員の方より頂いたご質問を再掲します。

質問:ビジネス日本語教育が手薄な中、どう企業の日本語研修を充実させていくべきだとお考えですか。

3つのアプローチが考えられると思います。
詳細はのちほど述べますが、その前に、周辺情報を整理してみたいと思います。

まず前回の投稿で、「日本語教育の推進に関する法律」が成立したことには軽く触れましたが、この法案はあくまで日本語教育の基本的な立ち位置や国の役割の方向性を定義づける性質のものです。
よって、もちろんこの法案が成立し施行されたからといって、企業で活躍する外国人材のビジネス日本語教育が今後どう保証されるのかについての議論が深まっているとは言い難い状況が今後しばらく続くことが想定されます。
ここで明記されていることが実現するまで、まだまだ距離を感じています。

また、これを言うと一部の日本語教育関連の先生を怒らせる可能性が大いに高いのですが(汗)、あとで触れるように、そもそも「ビジネス日本語」の定義自体が人によって異なる中、今の学校教育の場において、企業が求めるビジネス日本語教育がどこまで外国人材に提供できているのか、強い疑問を感じています。
ただしこれはビジネス日本語教育に関わる者全ての責任であり、学校関係者だけの問題ではありません。もちろん、ビジネス日本語にここ10年関わってきた日本語教師の私自身にも少なからず責任があるということもできると思います。



これをふまえ、まずこの問題(すなわち、ビジネス日本語教育の需要と供給のバランスが全くとれていない上、今後しばらく、バランスがとれる見込みがおそらく立たないという問題)について、その背景を整理してみると、真っ先に考えておきたいのが、以下の5点になると思います。

背景1、ビジネス日本語教育ができる教師が少ない(全体数、特に地方)

背景2、(すでに触れた通り)外国人材に対するビジネス日本語教育の質が、全国的に担保できているとは言いにくい

背景3、外国人材の雇用を進める企業側も、自社の業務に必要な日本語スキルの定義や整理ができていない

背景4、多くの日本企業が、外国人材に高い日本語スキルを求める傾向にある

背景5、(企業の採用対象である)国内留学生の日本語の質が低下している

つまり、教育側(1、2) 、企業側(3、4)、外国人材側(5)の3者が、このことに関してそれぞれ異なった課題を抱えていることをここではっきり意識しておきたいと思います。


その上で、1について少しだけ補足します。
ビジネス日本語教師は、大きく分けて2つの役割があります。企業や人材の日本語ニーズに合ったビジネス日本語教育のコースをデザインするコースデザイナーと、そのコースデザインに沿って日本語を実際に教える日本語教師です。コースデザイナーが現場に入って実際に教えながらコースを修正しつつ前に進むこともありますし、コースデザイナーの組んだデザインに対し、他の日本語教師が進捗を見ながら軌道修正することもよくあります。
このように両者は補完関係にありますが、一方でコースデザイナーの仕事の責任は重いものがあります。

そもそも企業自身が日本語のゴール設定をしない(またはゴールがあいまいな)状態でビジネス日本語研修の実施依頼をすることが多いため、コースデザイナーは企業の研修担当者とよく話し、その企業が考えるゴール設定を明確にした上で、与えられた予算の中でできることとできないことを企業に明示し、加えてそれに合ったテキスト、カリキュラム、日本語教師の配置などを具体的に組んでいくことになります。

コースデザイナーには、ある程度の専門的な知見とコースデザインの経験が求められますが、そもそも全国4万人の日本語教師のうち、留学生教育、子女教育しか経験がない人を除くと、その数はかなり少なくなります。その上、さらにコースデザインまでできる教師となると、その数は本当に少なくなってしまいます。

しかも、データを確認したわけではありませんが、地方企業への講演活動を通して地域の行政担当の方や教育関係の方などと情報交換する中で、こういったことができる人材は主に都市部に住んでいることが多いのではないだろうかと感じています。
つまり、たとえば地方企業が自社スタッフに対するビジネス日本語の対面レッスンを希望しても、優秀なビジネス日本語教師は非常に確保しづらいという状況があるわけです。


そこで、まず教育側の問題を解決するというオプションが考えられます。

1、日本語教師に対するビジネス日本語教育の拡充(文化庁認定日本語教師養成講座のカリキュラム内容変更や、日本語教師の新資格制度の中身の検討等)

2、企業の現場で働く外国人材が使えるカリキュラム開発(一部の教育テキスト使用偏重の見直し)や、オンライン教育、ICT、地域の行政プログラム等の活用


2は既に多くの教育関係者や地方行政関係者が研究し、実践しているものです。一方、1はまだまだ実現までに距離を感じます。
さらに、これら2つは、それぞれ展開に時間がかかります。環境の準備、教師の養成にも時間がかかるのはもちろんのこと、オフィスで採用されている外国人材のビジネス日本語の質を向上させる教育自体には、時間がかかるということです。そうしているうちに、どの企業もビジネスを前進させなければいけません。



私はいつも同じ考え方なのですが、とかく日本企業は外国人材受け入れというと、外国人材への研修や教育のみを考えがちです。
また、具体的な各種の政策の方向性も同様です。要するに、外国人を育成することに主眼が置かれやすく、受け入れの日本人、日本企業の育成という観点は後回しにされています。

しかし、それでは問題の半分しか解決できません。なぜなら、オフィスにおけるコミュニケーションのギャップの問題は、これに関わる双方がそれぞれ努力できる上、双方が歩み寄らないことには、解決が難しいからです。

そこで最後に、1や2で挙げた、教育側や外国人材側への教育だけでなく、外国人材の雇用を進める企業側が取り組める、3つ目のポイントを検討してみます。こちらの支援は、本当に少ないと強く感じています。


3、企業のスタッフに日本語教育に関する知見を深めてもらう(オフィスコミュニケーションギャップや日本語の特性、研修のコストと教育効果の関係、採用時の日本語レベルの見極め等)


弊社は外国人雇用を進める企業や業界団体にお呼び頂き、年100回ペースで講演会やワークショップを全国で実施しているのですが、この「日本人のための「つながる日本語」ワークショップ」というものは、外国人スタッフのマネジメントに関わる(主に)日本人管理職向けの研修です。

具体的には、実際の外国人スタッフとのコミュニケーション事例を多くご紹介しながら、「ニホンゴから日本人スタッフが受けるストレス」や「日本語ネイティブスピーカーが気づいていない日本語の特性と、そこから起きているコミュニケーションギャップ」などを企業の皆様にお伝えしたり、それを防ぐための具体的なコミュニケーションの方法を、再現性がある形でトレーニングしています。
つまり、あくまで日本人が意識していない問題をはっきりとさせ、企業ができることを明確にしてお伝えしているわけです。


こういった取り組みの過程で、いかに日本人が日本語に無自覚で、いかに社内で起きたコミュニケーションやマネジメントの問題を外国人スタッフのせいにしがちかということに向き合っているのですが、同時に全国の各企業には、役員や人事スタッフなどを中心に、社内で外国人雇用に真剣に取り組んでいる(主に)日本人スタッフがいることも知っています。

彼らのほとんどは日本語教育について無知です。無知ゆえ、たとえば採用時に、自社に合った日本語スキルを持った人材を選択したり、ビジネス日本語研修を適切な形で運用できなかったりしています。しかし、外国人スタッフの支援について、(一部は社内で孤立しながらも)真剣に取り組んでいる管理職や人事スタッフの方々が各社にいらっしゃるのもまた事実というわけです。



都市部の方にはぴんとこないかもしれませんが、これは地方では顕著で、この間、ある北関東地方で行われた、企業における日本語教育の講演会には100名の企業関係者の参加があり、事前アンケートによると、これら参加企業のうち約20%が、社内で自社社員(日本人及び外国人)が自社外国人への日本語教育に関わっているとの発表がありました。


そこで最後に、外部のビジネス日本語教師に頼らず、企業のスタッフ自身がビジネス日本語やビジネス日本語教育の知見を習得するという選択肢を提案したいと思います。

委員会では、やや突飛に聞こえるかもしれないと前置きして控えめに発言しましたが、本音では最も重要なことだと考えています。ビジネス日本語教育は、日本語教師だけのものではありません。
一方、日本語教育の基本知識や、オフィスで起きがちな日本語コミュニケーションの問題に対する本質的な理解なしにして、外国人のニホンゴや外国人の支援を適切に社内で進めることは難しいのではないかと感じています。

また、適切な相手の日本語スキルの評価、業務に必要な日本語の定義づけ等、外国人材を雇用する企業がその採用活動において準備しなければならないことには、ある程度日本語教育の専門的な知見を用いないと難しいことが多く存在します。

よって、一部の企業がすでに行っているように、社内にビジネス日本語教育に明るい日本語教師を雇用するか、もしくは外国人スタッフのマネジメントに関わっている企業のスタッフ自身が日本語教育及び日本語コミュニケーションの学習と理解を深め、自社の社内体制や業務内容に最適化させた形として、外国人の日本語評価と教育体制を整備する必要があると考えます。


私も委員を務めている経産省「外国人留学生の就職や採用後の活躍に向けたプロジェクト」政策検討委員会は、多様化する外国人材の活躍や定着をゴールとした採用に役立つ、企業向け自社チェックリストを公表できるよう、年末の取りまとめに向けて現在議論を深めているところです。

関連して、企業自身がどんなところに意識を向けて自社組織を見直すと良いのか、どんなところを点検し改善すればいいのかというこの視点は、まさに弊社が事業を進めている、企業向け「外国人スタッフ定着度測定テスト」や、企業向け「日本人のための「つながる日本語」ワークショップ」の趣旨とも合致しています。

すなわち、外国人スタッフを採用する際に、「企業が外国人自身を選定する」という視点よりも、「外国人スタッフからみて、自社がどのくらい働きやすいかを自己点検する」視点が必要だということです。

そしてこれは、多くの委員が共通して発言している通り、外国人雇用に限った話ではありません。働く人の視点で考え、自社の組織や現状の事業体制、また社内コミュニケーションやマネジメントスタイルを見直し、これを自社の事業の方向性に合わせ点検し最適化することは、国籍に関わらず、その企業で働く全てのスタッフにとって、有意義な取り組みだといえるでしょう。


外国人スタッフの有無、外国人雇用の予定の有無に限らず、これを契機として企業側が自社スタッフのエンゲージメントや満足度、最適で多様な働き方に注目し、ひいては業務効率の改善や生産性の向上に取り組めるよう、引き続き弊社も各企業のお手伝いを地道にさせて頂きたいと思います。

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