ビジネス日本語教育の地域格差について

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コロナ禍で大きく縮小した国内の日本語教育市場

今、日本語教育業界は大きく動いています。

2019年は「日本語教育の推進に関する法律」(いわゆる日本語教育推進法)の施行、2020年はその基本法案の制定が続き、2021年現在、日本語教師の国家資格化に関する議論が続いています。

資格のありかた、日本語教育機関の規定、また日本語教育機関における資格の運用など、「日本語教師の資格に関する調査研究協力者会議」において幅広く議論されたあと、文化庁による国民からの意見募集が行われ(パブコメ)、集まった855件の意見の概要も先日発表されました。

そして、最終的なとりまとめにあたる「日本語教育の参照枠」の最終報告が公開されました。この分野に関する今後の法案提出に向け、日本語教育業界はまた新たな一歩を踏み出すこととなります。

一方、現役の日本語教師たちは、今とても厳しい時代を迎えています。

留学生の来日が停止され、2019年の文化庁の調査ではおよそ28万人だった国内の日本語学習者数も、コロナ禍中の調査となった2020年11月、約16万人に激減しました(文化庁国語課「令和2年度日本語教育実態調査報告書」より)。ここ数年堅調に伸びてきた国内の日本語教育市場が大きく縮小したわけです。

また、こういった市場の縮小に比例して、この先もっと大きな負のインパクトを与えかねないのが、教育の担い手にあたる日本語教師の減少です。ここ数年は順調に増え、2019年には4万6千人を数えるまでになった日本語教師ですが、2020年調査では4万2千人を下回り、およそ10%以上の減少となっています。また、ボランティア以外の日本語教師は2万人を下回っています。

コロナを機に、日本語学習者の数は大きく減少した
(文化庁国語課「令和2年度日本語教育実態調査報告書」より)

日本語教師1人あたりの負荷

ここから地方に目線を移していきます。

全国に、ボランティア以外の日本語教師はおよそ2万人いるとさきほど述べましたが、たとえばみなさんは、和歌山県にどのくらいの日本語教師(ボランティアを除く日本語教師)がいるとお考えでしょうか。

文化庁の調査によると、たったの31人です。

では、和歌山県内で働く外国人はどのくらいいるでしょう。文化庁と同じ調査年にあたる2020年10月の厚生労働省の調査によると、約3千人いらっしゃいます。ICT教育、オンライン教育という観点を少し置いておくと、和歌山県の日本語教師1人あたりの外国人労働者数は、およそ100人ということになります。

日本語教師1人あたりの外国人労働者数

ここまでをまとめます。

現状では国内の日本語教師数は減少傾向にあり、一方で外国人労働者数は増加が見込まれています。「日本語教師1人あたりの外国人労働者数」という観点で、地方における日本語教育の格差、偏在を捉えようとすると、やや悲観的な状況にあります。

しかしこういう言い方をすると、「コロナ禍から回復すれば、日本語教育市場は回復し、教師数も復調するだろうから、労働者数が増加しても、たいした問題ではない。また、和歌山県の例でいえば、約3千人の外国人が全員、日本語教育を必要としているわけではないだろう」という意見を必ず頂きます。

後者のご指摘はごもっともな面があります。これはあくまで地方ごとの教師1人あたりの負荷を数で表すためのものであり、確かに、外国人労働者の全員が日本語教育を求めているわけではありません。しかし、地方ごとの日本語教育の格差、偏在は確実に存在します。

▼(ボランティア以外の)日本語教師1人あたりの外国人労働者数

順位 (負荷率) 都道府県 プロ教師数 (人) 労働者数 (人) 教師1名あたりの負荷  (人)
1三重県8030,054375.7
2滋賀県8020,011250.1
3茨城県16239,479243.7
4栃木県12127,606228.1
5群馬県22944,456194.1
6富山県6312,027190.9
7愛知県990175,114176.9
8岐阜県22134,936158.1
9香川県6610,422157.9
10長野県12819,858155.1
11静岡県44765,734147.1
12神奈川県71294,489132.7
〜〜〜(中略)〜〜〜
41鳥取県573,25057.0
42宮城県25413,79754.3
43福岡県1,02254,95753.8
44長崎県1176,17852.8
45徳島県1074,98546.6
46京都府54421,56039.6
47秋田県722,40233.4
     
 全国19,8571,724,32886.8
(文化庁、厚労省のデータをもとに内定ブリッジが作成。無断転載はご遠慮ください)

各都道府県の(ボランティアを除く)日本語教師と、その地域で活躍する外国人労働者数とのデータを合わせて、日本語教師1人あたりの外国人労働者数を算出すると、日本語教師1人あたりの外国人労働者数は全国平均で87人です。

しかし負荷率の最も高い1位の三重県と、47位の秋田県とを比べると、その負荷に11倍の開きがあることがわかります。
また、教師の負荷率の高い上位の都道府県をみると、傾向として、主に製造業の集中する北関東地方と中部地方の存在感が目立つことに気づきます。

一般に、各地域における日本語教室の偏在などは話題になることがありますが、日本語教師の負荷率については、あまり議論になりません。

しかし、日本の産業を支える外国人労働者の多くが、社内公用語を日本語とする日本企業で働いている以上、彼らの日本語教育を担う日本語教師の地域差について考えることは、とても重要な視点だと考えます。地域における優秀な日本語教師の確保と、質の高い日本語教育サービスの提供は、外国人雇用企業の業務効率や生産性の向上、また人材定着など、彼らの戦力化に直接的に関わる要素だからです。

ビジネス日本語教育に精通している日本語教師は少ない

では、日本語教育の提供するサービスの質はどうでしょう。

企業の方はあまりご存知ありませんが、文化庁の日本語教育実態調査報告書によると、実は全国の日本語教師が提供している教育サービスの提供先は、その多くが留学生であり、ビジネスパースン向けの日本語教育は、全体のたった7%弱に過ぎません。技能実習生向けの教育を合わせても、約13%程度です。

つまり、国内における日本語教育サービスの多くは、生活者や留学生への日本語教育がその大半であり、日本で働く外国人のためのビジネス日本語教育に精通している日本語教師は、全体的にみると実は非常に少ないという現実があります。

日本で働く外国人のためのビジネス日本語教育に精通している日本語教師は非常に少ない
(文化庁国語課「令和2年度日本語教育実態調査報告書」より)

パンデミック収束後の日本語教育市場の回復に関する前向きな見方についても、このようにそもそもビジネス日本語教育が日本語教育サービスの全体に占める比率の低さをふまえると、提供できるサービスの質という点から、見通しとしては厳しい現状にあることがわかると思います。

また、各地方における日本語教師は偏在しており、ビジネス日本語教育を担える日本語教師は、地域によってはとても少ないであろうこともご理解頂けると思います。

おわりに

内定ブリッジでは、地方で働く外国人社員のみなさま向けに、オンライン日本語研修を、各都道府県の予算を通して各地に提供しています。毎週10クラスの日本語研修を担当するのは、全国各地で活躍する、キャリア10年〜20年のプロ日本語教師たちです。

研修の様子を画面越しに眺めると、終業後のライブレッスンを、帰りの電車やバスの中で視聴する、大変熱心な会社員たちの日本語学習の様子を確認することができます。

実はこのライブ型レッスンは、業務で忙しい会社員の方のために、翌日以降の録画視聴も可能な仕様となっています。それにもかかわらず、帰りながら、スマートフォンで弊社の日本語研修サービスを受講して頂いているその様子からは、外国人社員が活躍する未来の希望と同時に、彼らの負担の重さ、その両方を感じ取ることになります。

こういった様子を見るたびに、筆者はもっと広い地域に、ビジネスで役立つ質の高い日本語教育サービスを届けたいという思いになりますし、そのためには、各地の日本語教師のビジネス日本語教育サービスの質が、全国的により高まる必要があります。というのも、ビジネス日本語教育の目的は、ただ単に外国人材の日本語レベルを高めることではなく、外国人雇用企業の生産性を向上させ、事業の展開や業績に彼らが大きく貢献することだからです。こういった点は、留学教育との明確な相違点になります。


ここまで、働く外国人に対するビジネス日本語教育が抱える課題について、地方ごと、地域ごとの偏在、格差という観点からみてきました。これをお読みの方が日本語教師の方であれば、こういった課題に対し、今年度も文化庁が複数のコースを設置している、就労者向け日本語研修の養成プログラムを受講して教務力を高めたり、課題を俯瞰する姿勢を身につけたりすることも有効です(筆者も今、ある文化庁委託の日本語教師養成コースで80名の受講生を担当しています)。

一方、そうでなくても、地域の日本語教室といった地方ごとの(ビジネス)日本語教育のあり方について、ひとりひとりの日本語教師のみなさんが考えるようになって頂けると、筆者としてはとてもうれしいです。

また、これをお読みの方が企業の方であれば、自社の生産性向上のための日本語教育の担い手が希少であることを踏まえたうえで、いずれかの日本語教育機関に教育サービスを依頼することになるかもしれません。その際には、下記の記事もご参考になさって頂き、御社に適した日本語研修サービスを導入して頂ければ幸いです。

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