外国人スタッフの漢字学習を社内で支援するための4ステップ
日本での外国人雇用は全国的に進んでおり、厚生労働省のまとめ(令和3年1月29日公表)*1によると、令和2年10月末時点での外国人労働者数は約172万人、外国人労働者を雇用する事業所数は約26万7千個所と、いずれも過去最高を更新しています。
外国人労働者を雇用している企業では、日本語教育において様々な制約がある中で、日本語教育の専門家ではない社内日本人スタッフが自社外国人スタッフの日本語学習支援を進める場合もよくあります。
日本語学習を本人任せにするのではなく、企業として支援に取り組む姿勢はすばらしいことです。
しかし、「外国語としての日本語教育」についてよく知らないために、外国人には効率が悪い方法を提案していたり、彼らのモチベーションを下げてしまったりしている企業も多く見受けられます。
今回は、外国人スタッフの日本語学習を自分たちで支援しようとする企業から特に関心の高い項目の1つである「漢字学習」に関して、日本人スタッフが知っておきたい内容と、自社の外国人スタッフを効果的・効率的に支援するための4ステップを説明します。
*1 厚生労働省「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和2年10月末現在)
日本人と外国人とでは、漢字学習は違う
最も重要なポイントを先にお伝えします。
漢字学習の方法は、日本人と外国人とでは全く違います。
外国人は第二言語として漢字を学習します。その学習プロセスは日本人が辿ってきたプロセスと大きく異なります。
外国人が漢字を覚えるための勘どころを、この後分かりやすくお伝えしてまいります。
外国人スタッフが漢字を学習することのメリット
漢字学習を支援するにあたって、まずは漢字の特性と漢字学習のメリットについてみておきましょう。
ひらがなやカタカナ、アルファベットの一文字が「音」を表すのに対して、漢字は「音」だけではなく「意味」も表します。「れ・ヌ・W」などは、ほとんどの場合単独では意味をなしませんが、漢字は「山」の一文字に「やま・サン」という音と「周囲よりも高く盛り上がった地形や場所」という意味の両方があります。
また、漢字には音読みと訓読みがあり、それぞれ複数あるものもあります。
訓読みに送り仮名があれば、そこにも注意しなければなりません。さらに、「機会/機械」のような同音異義語、「熱い/暑い/厚い」のような同訓異字語が多いことや、「梅雨(つゆ)」「土産(みやげ)」などのように特別な読み方をする漢字があることなども、漢字学習の難しさにつながっています。
このように、覚えるときには煩雑に感じられる面もある漢字ですが、漢字学習には大きなメリットがあります。
それは、漢字を覚えれば、使える語彙が増えるということです。
そもそも日本語は語彙数が多い言語だと言われており、日本語の上達には語彙の習得が欠かせません。中でも漢語の使用率は高く、日本語の漢語、和語、外来語、混種語の4つの語種のうち、新聞や雑誌などの一般的な書き言葉では、漢語の割合が約半分に上ります*2。
高校の教科書ではさらに高くなり*3、大学の学術書などでは7割以上を占めると言われています*4。
つまり、日本語では語彙に占める漢語の割合が高いので、漢字を覚えるとその漢字が使われている漢語も学ぶことができ、語彙が急激に広がります。そして漢字に強くなると、知らない言葉に触れたときも、漢字を手掛かりにしてその言葉の意味を類推することができるようになります。
たとえば、「改める」という漢字を学んで「古いものをやめて新しいものに変える」という意味を理解すれば、「改善」「改良」「改正」「改革」「改造」「改装」「改修」「改心」「改定」「改変」「改行」…といった多くの言葉の意味を類推できるようになるのです。
非常に大きなメリットのある漢字学習は、日本語の上達を図るうえで必要不可欠と言えるでしょう。
*2 国立国語研究所, 1964『現代雑誌九十種の用字用語調査(3)』
1970『電子計算機による新聞の語彙調査』
1994『現代雑誌200万字言語調査』
*3 国立国語研究所, 1983『高校教科書の語彙調査』
*4 松下, 2011『日本語語彙習得に関わる普遍性と個別性』
日本人は漢字をどのようにして覚えるのか
では、日本人はどのように漢字を学習しているのか振り返ってみましょう。
日本人の漢字学習と聞いて、真っ先に思い浮かぶのは「書き取り練習」と「漢字ドリル」という方も多いのではないでしょうか。一般的には小学1年生から漢字の学習を始め、義務教育を経て、高校に進学した場合は卒業まで「漢字テスト」に四苦八苦する日々が続きます。
授業で音読みと訓読み、部首などを学び、あとは習った漢字をノートに何回も何回も書く、そして漢字ドリルでまた書く…
ひたすら書き取りをして覚えるケースが多いと思います。
日本人の場合、日本語を母語として生活する中で、漢字の音読みも訓読みも言葉として耳から何度も聞いています。
さらに、子どものころから毎日の生活で漢字を目にする機会も多く、知らない漢字だとしても、漢字の形そのものには見慣れています。
もちろん漢字が苦手という日本人もいますが、ただひたすら書き取りをするだけで覚えられる子どもも多いのは、漢字を学習する前から母語として音読みや訓読みや形に触れているという背景があるからこそなのです。
外国人(特に非漢字圏人材)にとっての漢字学習の難しさ
日本語を外国語として学習する外国人は、日本人の子どもと同じように漢字を覚えられるわけではありません。特に非漢字圏の学習者は「漢字は難しい!」というイメージを持つことが多く、それには以下のような理由があります。
理由① 母語の文字が表音文字
ひらがなやカタカナ、アルファベットのように、一文字が「音」を表す文字は「表音文字」と呼ばれます。
母語の文字が表音文字である場合、漢字のような「意味のある文字」に慣れておらず、文字自体に意味があるということに難しさを感じてしまいます。
理由② 漢字の形を知らない
子どものころから生活の中で漢字に触れている日本人と違い、外国人にとって漢字は、当然のことながら全く新しいものです。文字として認識するのも難しく、絵のように感じるという声もよく聞きます。
理由③ 書き方が複雑
画数が多くなると、どこからどのように書けばいいのかわからず、日本人から見るとおかしな順番で、おかしな向きに書いたりします。
また、つなげて書くのか離して書くのか、飛び出すのか飛び出さないのか、はねるのかとめるのか、まっすぐなのか斜めなのか…細かい違いがあることも、複雑だと感じる一つの原因になっています。
理由④ 漢字の数の多さ
表音文字を用いる言語の場合、文字自体の数は数十程度であることが多く、覚える文字は数十字で済みます。
ところが、漢字は常用漢字だけで2136字あり、一番初めにこの数を聞いた外国人は、ほぼ100%途方に暮れた顔をします。
理由⑤ 読み方の多さ
一つの漢字に音読みと訓読みがあり、その2つを覚えるだけでも大変なのに、漢字によっては言葉が変わると読み方も変わってしまいます。「田中さんの発言/田中さんの伝言」「貴重な資料/重要な資料」「男女平等/世界の平和」…
難しい!以外の何ものでもありません。
理由⑥ 読み方と意味がわかっても、使い方がわからない
学習が進んでくると、がんばって形と読み方と意味を覚えても、使える場面がわからないという問題が起こってきます。
たとえば、「存続=なくならずに続く」と覚えて「コロナウイルスが流行していますが、残業は存続しています」と言ったり、「膨大な=量や規模が非常に大きい」と覚えて「田中さんの退職パーティーは膨大に行われました」と言ったりしてしまうような場合です。
理由⑦ 学習初期は、漢字と語彙が頭の中で結びつきにくい
日本人の場合は、漢字を学習する前からその言葉を知っていることが多く、覚えるのは新しい漢字だけでいいことも多いのですが、外国人の場合はもう少し複雑です。
特に学習初期の段階では、漢字と語彙の学習進度が合わず、まだよく知らない言葉と習った漢字が頭の中で結びつきにくい、学習効率の悪い時期があります。
たとえば、「~をあつめます」という言葉だけを学習した段階で「集」という漢字を学習した場合、「集めます」はイメージできても、「あつまってください」「しゅうごうしてください」と言われたときに「集」を思い浮かべることができないという状態です。
外国人(特に非漢字圏人材)への日本語教育において、漢字の教育はどのように行われているか
日本語教育の現場での漢字教育は、前述したような外国人学習者が感じている様々な「難しさ」を考慮して進めていきます。
漢字に触れたことがなく漢字がどういうものか全くわからない、ただただ難しそうで嫌だ、と思っている大多数の学習者には、まずは漢字全体のオリエンテーションを行い、漢字への不安感や抵抗感を取り除きます。
漢字には形と音だけではなく意味があること、絵からできた漢字もあること、漢字の形や組み合わせのパターン、基本的な書き方(上から下へ、左から右へ)、漢字が使われている様々な生活場面、どのように勉強すればいいか、などなど…「漢字は難しくない!」「漢字はおもしろい!!」「漢字ができたらこんなに便利!!!」ということをあの手この手で伝えます。
こうして、漢字と漢字学習に対するハードルが少し下がったところで実際の授業を始めるわけですが、初めに扱う漢字はやはり、漢数字や曜日の漢字(月火水…)など、画数が少なく比較的簡単なものの場合がほとんどです。
ただ、日本人の子どもの学習順序と大きく違うことがあります。
それは「文法や語彙の授業で習った言葉の漢字から扱う」ということです。
知らない言葉の漢字を覚えるのは負担が大きく効率も悪いです。そこで多くの場合、語彙学習とリンクさせて、まずは文法・語彙の授業で言葉を覚え、その少し後でその言葉の漢字を学習するという形で進めていきます。
ですので、小学1年生で習うような簡単な漢字でも、外国人学習者が学習初期に習う言葉ではない場合、日本語教育ではその漢字を扱わないことがあります。
使用する教科書にもよりますが、たとえば小学1年生で習う80字のうち「糸」「石」「虫」などの言葉は日本語学習の初級では扱わない場合が多く、単独の漢字としては学習しないこともあります。
反対に、小学6年生まで習わない「晩」という漢字をかなり早い段階で学習したりもします。
漢字学習の初期段階では、一字一字丁寧に、形、音訓、意味、パターンなどを指導すると同時に、漢字に興味を持てるようなきっかけを準備するよう心がけます。
絵を使って形をイメージする方法や、漢字の形からストーリーを作り、そのストーリーを使って覚える方法などを示すことで、漢字学習に対するマイナスイメージはずいぶん改善します。絵やストーリーを使って漢字を覚える、日本語教育のための漢字教材もいくつか出版されていて、授業でも適宜使用しますが、しばらく続けていくうちにだんだん慣れて、自分たちでオリジナルストーリーを作って覚えることができるようにもなります。
また彼らは日本人と違って、外国語として言葉の意味も同時に暗記しなければならないため、漢字や漢字語彙の対訳が併記された日本語教育のための漢字教材も多く出版されており、対訳がついていることは漢字語彙学習の大きなサポートになります。
このような形で漢字教育を進めていくと、新しく学習する漢字のパーツは、既習漢字のパーツの一部と重なる場合が増え、記憶がどんどん楽になります。ある程度まとまった数の漢字を学習したら、次の段階として、部首別、音別、意味別、場面別など、漢字を整理しながら学習できるようになります。
これらもそのための漢字教材が出版されているので、うまく利用することで学習に役立ちます。
反対に、企業によくある失敗ですが、日本人の子どものための漢字ドリルを外国人スタッフにやらせてはいけません。
漢字の提出順序が違う上にわからない言葉がたくさん出てくるので、学習効率が著しく低く、身につきません。そのため、学習のモチベーション維持も非常に難しくなります。
会社ができる外国人スタッフの漢字学習サポート4ステップ
では、一体どうすればいいのでしょう。
社内で外国人スタッフの学習をサポートする際に、モチベーションを下げることなく効果的にサポートする方法を、4つのステップでご紹介します。
1. 教育責任者を社内で明確に決める
外国人スタッフが学習に積極的ではない場合はもちろん、たとえ学習が必要だ、がんばりたいと思っていたとしても、業務が忙しい、やり方がよくわからない、疲れて気分が乗らない…様々な理由で多くの人は挫折します。
一人でコツコツ継続できるのは、ほんの一握りの鉄の意志の持ち主だけです。
そこで、「学習を見守ってくれる人」が必要になります。研修の担当責任者を決めましょう。責任者を明確にすることで、せっかく始めた研修がうやむやになるのも防げますし、何より、外国人スタッフのモチベーション維持につながります。
時に優しく時に厳しく、外国人スタッフのやる気にも怠け心にも寄り添うことができれば最高です。
なお、日本語教育の責任者を定めることの意味や目的は、こちらの記事で詳しく説明しております。併せてご覧ください。
2. 教育方法と使用教材を決める
担当責任者が決まったら、その人が「外国人の漢字学習」についておおまかに理解することが大切です。理解しないで日本人用の漢字ドリルを買い与えてしまっては効果激減だからです。
もし余裕があれば、実際に日本語教育用の漢字教材に目を通し、外国人への漢字教育のアイデアも把握しておくといいでしょう。漢字が苦手な外国人スタッフに学習方法を提案するのにも役立ちます。
次に、担当する外国人スタッフの現在の状態を確認し、レベルに合う教材を選びます。目標期間と目標レベル、評価方法を検討し、業務の状態や会社の状況に合わせて、具体的な教育方法を決めてください。
おすすめの教材は後半でお伝えしております(該当箇所へジャンプする)
3. 教育を進める
日本人スタッフが漢字学習の教育にどこまで時間を割けるかは、企業の状況によって違うと思います。
ここでは、自習をさせる場合の3つのケースをご紹介します。
ケース① テキストに準拠して、毎日定量をインプット学習(自習)させる
自習用の教材はいろいろありますが、たとえば『1日15分の漢字学習』(アルク)がおすすめです。
初級・初中級レベルなら、毎日2ページ(6字)ずつ学習し、約3か月で初中級までに必要な555字を学習することができます。
また、5ヶ国語の解説があるのも便利です。
このケースでは特別なアウトプットは行いませんが、きちんと学習を進めているかどうか、進捗の確認は何らかの形で行ったほうがいいでしょう。リストを作って記録したり、可能であれば、そのリストを壁に貼っておく等の方法も使えます。皆に見える状態にしておくことで、学習のモチベーションが上がることもあります。
ケース② 毎日定量のインプット学習(自習)と並行して、アウトプットをさせる
6字ずつ学習するのと並行して、その漢字や漢字語彙を使った例文を1文自分で作らせ、担当者が添削します。
テキストとは別にノートを作り、両者でやりとりをするといいでしょう。
インプットした情報は、アウトプットによって強化されます。自分自身で例文を作って書くことによって、学習した漢字が記憶に残りやすくなります。
また、担当者が添削するとき、ほんの一言コメントを書くだけで外国人スタッフのモチベーションは上がります。
上手く作れた例文やきれいに書けた漢字に花丸をつけたり、スタンプやシールを使ったりするのも意外と効果的です。
ケース③ 毎日定量のインプット学習(自習)と並行して、業務に関連付けたアウトプットをさせる
6字ずつ学習するのと並行して、作文や日報など、毎日一定量の文章を書かせて、担当者がチェックします。
ここでは、ある程度まとまりのある文章を書かせ、既習の漢字は使うように指導します。
その日に学習した漢字がその日に使えるわけではありませんが、以前学習した漢字も内容に合わせて使うことになり、より実践的なアウトプット練習になります。
チェックするとき、日本語教育の知見があるなら文法や語彙の指導をしてもいいですが、それが難しい場合は、感想やコメントなどを簡単に添えて返却するといいでしょう。
ちゃんと見てくれている、読んでくれているということがわかり、外国人スタッフの励みになります。
反対に、間違いを指導する場合は、添削しすぎないように気をつけてください。
直されまくって真っ赤になって返ってきた作文や日報は、モチベーションダウンにつながる場合もあります。ここでは、アウトプットをさせることでインプットを定着させることが目的なので、すべての間違いを添削する必要はありません。
4. 振り返りを行う
3か月や半年などの目標期間が終わったら、簡単な漢字テストを作成して実施し、どの程度定着したのか評価します。
評価結果は数字にして見える化し、本人と本人の上司、人事などと共有します。
定着度合いが低い場合は、教育方法を見直す必要があるかもしれません。漢字学習以外の自習も促進している場合は、JLPTの合格などを目標として、目標達成の際に褒賞を与える企業や、月額の給与に反映させる企業もあります。
おすすめのテキストやWEBサイト
外国人向けの漢字学習テキストと役立つサイトをいくつかご紹介します。
初級レベルのテキスト(~500字程度)
●みんなの日本語初級Ⅰ・Ⅱ 漢字(スリーエーネットワーク)
『みんなの日本語初級Ⅰ・Ⅱ 第2版 本冊』に準拠した漢字教材です。
(みんなの日本語は、日本語教育の中で最も使われているテキストの1つです。)
Ⅰには220の漢字とそれらの漢字を使った351の漢字語が、Ⅱには316の漢字とそれらの漢字を使った491の漢字語が収録されており、2冊で536字が学習できます。
「漢字を単に書いて覚えるのではなく、既知の言葉や文脈の中で学習し、それと並行して漢字の体系について学ぶ」というコンセプトで作られています。日本語学習の主教材が『みんなの日本語』の場合は、漢字の自習の際にも各課の語彙や文法と関連付けることができて便利です。
学習漢字とそれを含む漢字語がシンプルな形で提示されている、別冊「参考冊」がついています。英語版とベトナム語版があります。また、さらに読み書きの練習がしたい場合は別売りの『漢字練習帳』を併せて使うこともできます。
●KANJI LOOK AND LEARN イメージで覚える[げんき]な漢字 512(The Japan Times)
名前の通り、漢字にイラストを当てはめてストーリーを作り、イメージを使って形と意味を学習しようという教材です。
漢字数は512字、各漢字を使った初中級レベルの必須語彙が約3500語収録されています。
絵も可愛く、シンプルなストーリーにイメージしやすいイラストが多いので、楽しく漢字を学習することができます。漢字に苦手意識を失くし、覚え方のアイデアを得るのにも役立つ教材です。
漢字の意味、言葉、ストーリーには英語の対訳がついています。ワークブックを併用すれば、漢字や単語レベルだけでなく、文や文章の中で 漢字学習ができます。
●ストーリーで覚える漢字 (くろしお出版)
初級漢字の字形と意味をイラスト付きのオリジナルストーリーで覚えた後に、読み・書き練習を導入する教材です。
シリーズ2冊で初~初中級漢字500字が収録されており、英語、インドネシア語、タイ語、ベトナム語、韓国語、ポルトガル語、スペイン語の7カ国語翻訳対応です。
日本語能力試験N5,N4対策問題が付いたワークブックもあり、文脈での理解、読解、産出、音声を取り入れた多様な出題で楽しみながら初級漢字を身につけることができます。
● 漢字たまご(凡人社)
実際の使用場面を重視し、「その漢字を学習すればできるようになること」が示された教材です。
各課にはできることの具体例が明記されており、学習した漢字は、実際の場面に近い状況で、必要な情報を読み取ったり、漢字で書いたりする練習ができるようになっています。
また、漢字を3つに分けて、
- 読んで書ける必要がある漢字
- 読めればいい漢字
- サインとしてわかればいい漢字
として提出しているのも大きな特徴の一つです。
初級では上記の①が162字、②が39語、③が26語、初中級では①が164字、②が48語、③が27語、学習できます。
さらに、漢字学習のアイデアがいろいろ紹介されており、自分に合った学習方法を選んで、自分なりの漢字の学び方を見つける手助けにもなります。無料で公開されている教師用資料「ヒント&ポイント」があり、日本人スタッフが学習支援を行う際のアイデアとして役立ちます。一部、英語の翻訳つきです。
● 1日15分の漢字学習 初級~初中級(アルク)
初級・初中級レベル(N5~N3)に必要となる漢字が上下巻合わせて555字収録されています。毎日2ページ(6字)ずつ学習し、読み書きのワークシートに取り組むことにより、約3か月で初中級までに必要な漢字を習得することができます。
また、学習した漢字を用いた語彙と例文も掲載されています。語彙には英語、中国語(簡体字・繁体字)、韓国語、タイ語、ベトナム語訳が付いており、自習用としても便利です。
上巻の巻頭には、漢字の書き方、部首、漢字のなりたちが、下巻の巻末には、助数詞の読み方が付いています。
●『日本語総まとめ N4 漢字、ことば』『日本語総まとめ N3 漢字』(アスク出版)
日本語能力試験(JLPT)対策用の教材で、英語、中国語、韓国語、ベトナム語の翻訳版があり、自習用としても使いやすい構成です。
N4は日本語能力試験(JLPT)N4に頻出する漢字約200字と語彙約300語を、N3は漢字336字と語彙約850語を、6週間で学ぶことができます。1週間に1回分のテストがついていて、理解の確認ができるようになっています。
●ドリル&ドリル 日本語能力試験 N5 文字・語彙・文法・読解・聴解
ドリル&ドリル 日本語能力試験 N4 文字・語彙・文法・読解・聴解(ユニコム)
日本語能力試験(JLPT)対策用の教材で、まずは実際の試験形式で問題を解いた後に、答え合わせをしていくスタイルで学習します。解答には正解だけでなく、丁寧でわかり易い解説がついているので、この解説を読むことで自習を進めることができます。
N5の解説には英語とベトナム語の訳が、N4の解説には英語訳がついています。
日本語能力試験の実戦形式で、多くの問題を解いて練習したい場合におすすめです。
中級レベルのテキスト(500字程度~)
●INTERMEDIATE KANJI BOOK 漢字1000Plus VOL.1 /VOL.2(凡人社)
『BASIC KANJI BOOK 基本漢字500』 VOL.1/VOL.2 の続編で、形、音、意味、用法…など、漢字のさまざまな視点からのアイデアが提示されていて、漢字の知識を整理しながら、体系的に学習できる教材です。
自分に合った最適な学習方法を発見し、周りの日本人や辞書などの助けを得ながら、自主的に、効果的な学習を進めていけるような工夫もされています。
また、はじめに「漢字力診断テスト」がついており、自分自身のそれまでの漢字の知識や運用力のバランスを調べることができます。偏りや弱点を知り、これからどのような方法で勉強していけばいいのか、アドバイスを得ることができるようになっています。一部、英語の翻訳がついています。
●Remembering the Kanji 1,2,3(James W. Heisig著/Univ of Hawaii Pr)
漢字のパーツにオリジナルのストーリーを作り、それぞれのパーツのストーリーを組み合わせて、1つの漢字に独自のストーリーを与えることで、漢字の形や意味を記憶していくスタイルの教材です。
ストーリーの説明がすべて英語のため、英語がよくわかる人にしか使えませんが、英語話者には非常に人気のある教材です。
●『日本語総まとめ N2漢字』『日本語総まとめ N1漢字』(アスク出版)
日本語総まとめシリーズでN4・N3同様に日本語能力試験(JLPT)対策用の教材ですが、自習にも使いやすい構成です。
N2は1日14~15字、8週間で漢字739字と語彙約2200語を、N1は8週間で約2300の漢字語を学びます。
英語、中国語、韓国語、ベトナム語の翻訳版があります。
●1日15分の漢字学習 中級(アルク)
『1日15分の漢字練習 初級~初中級』の中級編で、1日5字ずつ、上下巻合わせて3カ月で中級漢字500字が学習できます。
● 『ドリル&ドリル 日本語能力試験 N3 文字・語彙』
『ドリル&ドリル 日本語能力試験 N2 文字・語彙』
『ドリル&ドリル 日本語能力試験 N1 文字・語彙』(ユニコム)
ドリル&ドリルシリーズ、N5・N4の続編です。
N5・N4同様、まずは実際の試験形式で問題を解いた後に、答え合わせをしていくスタイルで学習します。
解答には正解だけでなく、丁寧でわかり易い解説がついているので、この解説を読むことで自習を進めることができます。
それぞれ解説には英語・中国語・韓国語の訳がついています。日本語能力試験の実戦形式で、多くの問題を解いて練習したい場合におすすめです。
WEBサイト
● JFにほんご eラーニング みなと
国際交流基金が管理するサイトで、無料登録をすれば、様々なオンラインコース自習コースが受講できます。
漢字学習に関しては、入門コースが2コース準備されています。
● NIHONGO eな
インターネット上にある日本語学習に役に立つサイトやツール、アプリをわかりやすく紹介する日本語学習ポータルサイトです。様々なレベルとカテゴリーで、自分に合うものを検索することができます。こちらも国際交流基金が管理するサイトです。
サイト検索のカテゴリー「漢字」で検索すると、2021年8月28日現在、初級51、中級33、上級27のサイトが紹介されています。
●ひらひらのひらがなめがね
見たいサイトのURLを入力すると、すべての漢字に振り仮名をつけてくれるサイトです。
●NHK NEWS WEB EASY
外国人や小中学生向けに、わかりやすい言葉でニュースを伝えるサイトです。
選んだニュースを読むときに、漢字の振り仮名を自由につけたり消したりできるので、漢字の読み方も学習できます。
また、漢字を文脈の中で、それも興味のあるニュースの中で目にすることができるので、意味や使い方の理解、定着にも役立ちます。
まとめ
どんな学習においても、「自分に合った方法を見つける」というのは大切なことですが、外国人の漢字学習においては特に重要です。日本人の子どもの漢字学習と同じように考えられがちですが、実は全然違うからです。
日本人スタッフがこのことを理解して、状況にあった教材やツールを紹介し、学習の方法やアイデアを伝えることができれば、外国人スタッフの学習効率は飛躍的に上がります。
皆様の漢字学習支援が上手くいくよう願っています。
省庁やJETRO、全国の自治体、大学などと連携して全国の外国人雇用企業に対し、社内体制の整備、異文化コミュニケーション、外国人スタッフの育成定着と戦力化に関する研修、ワークショップを数多く提供しています。また、ビジネス日本語教師の立場から、海外日本語教師の育成にも携わっています。
外国人の雇用は、日本で働く外国人もさることながら、一緒に働く日本人側にも負担がかかりますが、工夫次第でうまくいきます。日本人と外国人がともに働きやすい環境を作るためにどのような点を工夫すればよいか、できる限りわかりやすくお伝えしたいと考えております。
【委員等の実績】
・日本貿易振興機構(JETRO)高度外国人材スペシャリスト(現任/通算7年目)
・厚生労働省「外国人労働者雇用労務責任者講習検討委員会」委員(現任/2年目)
・東京都産業労働局「東京外国人材採用ナビセンター」企業相談員(現任/3年目)
・文化庁「日本語教育推進関係者会議」委員(2021-2023)
・広島県「特定技能外国人受入モデル企業」支援アドバイザー(2023)
・独立行政法人 国際交流基金 客員講師(2019-2023)
・文化庁「就労者に対する初任日本語教師研修教材開発」カリキュラム検討委員会委員(2020-2022)
・厚生労働省「外国人の能力開発に関する専門研修」検討委員会委員(2022)
・経済産業省「職場における外国人材との効果的なコミュニケーション実現に向けた学びのあり方に係る調査事業」アドバイザー(2020)
・厚生労働省「雇用管理に役立つ多言語用語集の作成事業」有識者研究会委員(2020)
・東京都「外国人材活用に関する検討会」委員(2020)
・経済産業省「外国人留学生の就職や採用後の活躍に向けたプロジェクト」政策検討委員会委員(2019-2020)
この他、厚生労働省、文化庁など各省庁事業の技術審査委員を務める
【メディア掲載】
・朝日新聞デジタル(電子版・2024/3/7)「「次は家族と一緒に」外国人労働者の資格、広島県が後押しする理由」
・日本経済新聞電子版(2023/11/24)「「育成就労」どんな制度? 技能実習の転職制限、段階緩和」
・朝日新聞(全国版)・朝刊2面(2023/7/3)「日本語ペラペラ」求めるだけの企業は選ばれない 人材獲得の障壁に」
・日本経済新聞電子版(2021/12/26)「レベル高すぎ? 企業が外国人材に求める日本語力」
・共同通信(2022/12/2)Is “standard” Japanese test best metric for hiring foreigners?
・アイデム 人と仕事研究所「外国人スタッフの定着と戦力化を図る」
・向学新聞 連載「日本語のプロと考える ビジネス日本語」
・全国自治体による、外国人スタッフへの日本語教育に関する助成制度の実態調査
・ビジネス日本語研究会 2020年1月号ジャーナル 研究論文掲載(共著)
・jops biz「日本人社員と外国人社員のコミュニケーションギャップとは」
・Knowledge Society「外国人と企業の懸け橋へ 日本語教師出身の創業者に独立の思いを聞く」