やさしい日本語とは?言い換える方法やコツをわかりやすく紹介
やさしい日本語とは?
やさしい日本語は、「日本人が普段使っている日本語」を外国人やこども、高齢者など、より多くの人に伝わるよう「わかりやすくした日本語」のことです。
現在日本には、195の国と地域の在留外国人が住んでおり、それぞれの母語は多岐にわたります。すべての母語に対応した翻訳を作ることが理想ですが、実際はそうもいきません。
多くの外国人に伝わるように作られたのがやさしい日本語。日本語は在留外国人にとって母語の次に馴染みの深い言語だといわれています。出入国在留管理庁の在留外国人を対象とした調査(※)によると、「情報を入手する時に、情報提供される言語として、母語以外ではどの言語を希望しますか」という質問に対して日本語が最も多い結果になりました。
このことから、外国人に情報を的確に早く伝える手段として、日本語をよりわかりやすくした「やさしい日本語」が注目されています。
(※)出入国在留管理庁「令和4年度 在留外国人に対する基礎調査」
やさしい日本語ができたきっかけ
やさしい日本語が生まれたのは、阪神・淡路大震災がきっかけ。震災による外国人の死亡率、負傷率は日本人よりも高く、多くの人が被害に遭いました。日本に住む外国人が、災害時に適切な行動をとれるように弘前大学の佐藤和之教授がやさしい日本語を考案したのです。
現在、やさしい日本語は防災のためだけでなく、行政や医療現場、企業などに広まっています。
外国人にとって日本語は難しい
私たちが普段なにげなく使っている日本語は、外国人にとってわかりにくい言葉が多いといえます。
例えば、「土足厳禁」は、外国人にとって難しい言葉。漢字が並んでいる上に、海外では土足で家を上がるのが一般的で文化の壁があるからです。やさしい日本語で「土足厳禁」を言い換えると「靴[くつ]を脱[ぬ]いで家[いえ]に入[はい]ってください」。こうして表現すると、土足文化が根付いている国の人でも伝わるでしょう。
他にも「大丈夫」はわかりにくい言葉の一つ。例えば、お店でレジ袋が必要か尋ねられたとき「大丈夫です」と伝えていませんか。大丈夫は”肯定”にも”否定”にもとれる言葉です。相手の表情や文脈によって「レジ袋の要・不要」を判断する必要があり、日本の文化に慣れていない外国人は迷います。はっきりと「要る」「要らない」を伝えるのがいいでしょう。
実は日本語は、世界の言語のなかでも”文脈依存度”が高い言語だといわれています。文脈依存とは、言葉以外から言いたいことを推し量るコミュニケーションのこと。日本とは違って外国は文脈依存度が低く、言葉だけで言いたいことを伝えるコミュニケーションスタイルをとります。日本語に慣れていないと「以心伝心」「あうんの呼吸」は通じないので、日本人と外国人との間にミスコミュニケーションが生じるのです。
【コラム】「やさしい日本語」は日本語が話せない外国人も使える
やさしい日本語は、日本語を読み書きできない外国人も活用できます。知らない言語を話す人と会話するとき、自動翻訳を使う人も多いのではないでしょうか。自動翻訳を使うときに、日本語をそのまま翻訳にかけるよりも、やさしい日本語を自動翻訳する方が精度が高くなるといわれています。
日本語を話せない人とコミュニケーションをとるときは、やさしい日本語から相手の母語に翻訳すると親切かもしれません。
書き言葉で「やさしい日本語」に言い換える方法
次から書き言葉で日本語をやさしい日本語に言い換える方法を紹介します。
この章では、次の例文を実際に言い換えながら解説。日本語でも難しい文章ですが、ポイントをおさえれば翻訳できるようになるでしょう。
新規の上陸の許可を受けて日本に入国した場合、在留カードが交付された方(後日交付となった方を含む。)は、住所を定めた日から14日以内に、在留カード(後日交付となった方はパスポート)をお持ちになってお住まいの市町村において転入の届出をする必要があります。ご家族と一緒に日本で暮らす方については、ご家族の関係(続柄)を証明する文書(本国の政府などの公的機関が発行したもので、婚姻証明書、出生証明書など)が必要となります。
在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン
ステップ1:日本人が読んでもわかりやすい言葉にする
日本人が読んでもわかりやすい文章に言い換えましょう。ここで大切なのは、「伝えたいことをはっきりさせる」「難しい言葉をなくす」の2点です。
まずは、余計な日本語をとり除き、伝えたいことをはっきりさせましょう。情報を過不足なく盛り込むことを意識してください。
新規の上陸の許可を受けて日本に入国した場合、在留カードが交付された方(後日交付となった方を含む。)は、住所を定めた日から14日以内に、在留カード(後日交付となった方はパスポート)をお持ちになってお住まいの市町村において転入の届出をする必要があります。ご家族と一緒に日本で暮らす方については、ご家族の関係(続柄)を証明する文書(本国の政府などの公的機関が発行したもので、婚姻証明書、出生証明書など)が必要となります。
次に難しい言葉を易しい言葉に言い換えましょう。回りくどい言い方や二重否定を変えると、わかりやすくなります。
【言い換え例】
住所を定めた日→住所が決まった日
市町村において転入の届け出をする必要があります→市町村に転入届を出さないといけない
文章は短くシンプルにしましょう。3つ以上のことを書くときは箇条書きにすると、要点が理解しやすくなるでしょう。
実際に言い換えてみると以下のようになります。
新しく上陸許可を受けて日本に入国したら、
・住所が決まった日から14日以内に市町村へ転入届を出さないといけない
・転入届を出すには、在留カードまたは、パスポートが必要
・家族と一緒に暮らす場合は、婚姻証明書や出生証明書などの家族関係を証明する公的な文書も必要
これでもとの難しい文章がわかりやすくなりました。
ステップ1ができているか不安な人は、次のチェックリストを活用してください。問題なければ、ステップ2に移りましょう。
【ステップ1のチェックリスト】
□伝えたいことをはっきりさせている
□難しい言葉を簡単な言葉に言い換えている
□情報の過不足がない状態である
□文章が短くなっている
□3つ以上のことをいうときは箇条書きになっている
□回りくどい言い方をしていない
□二重否定を使っていない
ステップ2:外国人が読んでわかりやすい言葉にする
「日本人にとってわかりやすい日本語」から「外国人にとってわかりやすい日本語」に変換しましょう。このとき、「外国人の日本語習得レベルに合わせること」「重要な言葉はそのまま使うこと」の2点が大切。
やさしい日本語は主に日本語能力試験N3〜N4レベル(※)の言葉を使います。日本語能力試験には5段階のレベルがあり、N5が初級で、N1が上級です。N3〜N4は中級レベルで、複雑な漢字はわかりません。そのため、すべての漢字にふりがなをつけ、日本語に慣れていない人にも伝わるようにしましょう。ふりがなは、漢字の上部か漢字の後ろにかっこ書きで入れます。
【補足】
N3:日常的な場面で使われる日本語をある程度理解できる
N4:基本的な日本語を理解できる
また、外国人は日本語を学ぶとき「です・ます」の丁寧語から勉強します。ラフな言葉や尊敬語、謙譲語はむずかしいため、できるだけ表記を「です・ます」に統一しましょう。曖昧な言葉は外国人に伝わりにくくミスコミュニケーションの原因となるので、はっきりと書くことが大切です。
これらを守って言い換えると以下のようになります。
日本[にほん]の住所[じゅうしょ]が決[き]まったとき
・14日以内[にちいない]に住所[じゅうしょ]がある町[まち]の役所[やくしょ]に転入届[てんにゅうとどけ]を出[だ]します
・役所[やくしょ]には、在留[ざいりゅう]カードまたは、パスポートを持[も]っていきます
・日本人[にほんじん]ではない家族[かぞく]と住[す]む人[ひと]は、家族[かぞく]の関係[かんけい]がわかる書類[しょるい]を持[も]っていきます
転入届や在留カードは、外国人が日常生活でよく使う言葉なので、そのまま使いましょう。とはいえ難しい言葉なので、言葉の説明をかっこ書きで入れるとより親切です。
さらに、カタカナ語にも注意が必要。カタカナ語は、本来の言葉の意味や発音と異なることがあるからです。カタカナ語を使う場合はなるべく日本語に言い換えて、難しい場合はカタカナ語と伝えたい言葉の意味が一致するかを調べるようにしましょう。
日本[にほん]の住所[じゅうしょ]が決[き]まったとき
・14日以内[にちいない]に住所[じゅうしょ]がある町[まち]の役所[やくしょ]に転入届[てんにゅうとどけ]を出[だ]します
・役所[やくしょ]には、在留[ざいりゅう]カードまたは、パスポートを持[も]っていきます
・日本人[にほんじん]ではない家族[かぞく]と住[す]む人[ひと]は、家族[かぞく]の関係[かんけい]がわかる書類[しょるい]を持[も]っていきます
転入届[てんにゅうとどけ]<新[あたら]しいところへ引越[ひっこ]してきたことを知[し]らせる紙[かみ]>
在留[ざいりゅう]カード<日本[にほん]に長[なが]くいるための証明書[しょうめいしょ]>
もとの文章は日本人でもわかりにくかったものの、外国人の日本語習得レベルに合わせて書くことで伝わる日本語になりました。
ステップ2ができているか不安な人は、次のチェックリストで確認しましょう。
【ステップ2のチェックリスト】
□日本語能力試験N3〜N4レベルの言葉を使っている
□すべての漢字にふりがながついている
□「です・ます」に統一されている
□曖昧な表現は使われていない
□重要な言葉はそのまま使い、注釈を入れている
ステップ3:外国人に確認してもらう
ステップ2で作ったやさしい日本語を外国人にみてもらいましょう。難しくないか、正しく伝わっているかを確認してください。外国人が躓いたポイントやわかりにくいと感じた部分を修正するとよりよくなります。
【コラム】やさしい日本語の作成に使えるツール
やさしい日本語の作成に役立つ無料のツール2つを紹介します。
翻訳するときに「外国人に伝わるだろうか」「難しい日本語は使っていないだろうか」と心配に思ったらぜひ使ってください。
1つ目は、やさにちチェッカーです。入力した言葉が難しくないか「語彙」「漢字」「硬さ」「長さ」「文法」の5つの項目から診断してくれます。改善すべきポイントが一目でわかるのが便利です。使い方は、調べたい文章をテキストボックスに入れて、「診断」をクリックすると結果がわかります。
2つ目は、リーディングチュウ太です。やさしい日本語は、日本語能力試験N3〜N4レベルの語彙が推奨されています。リーディングチュウ太は文章中に使われている語彙が日本語能力試験で何級かを判定してくれるすぐれもの。使い方は、調べたい文章をテキストボックスに入れて、「語彙」をクリックすると結果がわかります。
会話で「やさしい日本語」を使うコツ
会話の中でやさしい日本語を使うコツを紹介します。会話は、書き言葉と違ってリアルタイムでのコミュニケーションなので、ハードルが高いと感じる人も多いのではないでしょうか。
話すときは、相手のリアクションをみながら、わかりやすい日本語で伝えることを意識してください。次から具体的なやり方を紹介します。
外国人に寄り添って話す
外国人に配慮した伝え方をしましょう。
わかりやすく伝えるためには、相手の日本語習得レベルに合わせることが大切です。相手にとって難しい言葉ばかり使っていると一方通行のコミュニケーションになってしまうでしょう。
少し言葉を交わしてみて意思疎通が難しいと感じたら、ゆっくり、はっきり簡単な言葉で話してください。ジェスチャーを入れるとよりわかりやすくなるでしょう。話しているときに適宜「聞きやすいかどうか」「スピードに問題がないか」「話の内容はわかったか」を確認すると、理解が深まりやすくなります。
相手がわからないことを前提に話す
話していて相手のリアクションが悪ければ、”意味”が伝えられていないのではなく”文化の違い”に戸惑っているのかもしれません。日本と相手の母国は違う文化や価値観があることを意識して話しましょう。
例えば、地震が起きたときに外国人にどう伝えますか?日本では、「津波」や「余震」という言葉は日常的に使われていますが、外国人には馴染みがないかもしれません。相手の国の文化や価値観が日本とはどう違うのか理解して、相手が知らないことを前提に話をすればスムーズに伝わるでしょう。
日本特有の表現を控える
話すときは”日本語のクセ”を意識し、使うのを控えましょう。日本特有の表現に躓く外国人は少なくありません。
例えば、外国語と比べて日本語は、主語を省略する文化があります。日本人は話の間や空気、文脈から主語を推測できるので、言葉足らずでも支障はありません。一方外国人は、主語を推測できないので「誰がどうしたのか」わからず、会話についていけなくなってしまいます。やさしい日本語で話すときは、主語を入れるように意識しましょう。
また、日本人が使うカタカナ語は外国人に通じないことがあります。カタカナ語は、発音が違ったり和製英語だったりするからです。
例えば、ハローワーク。日本ではよく使う言葉ですが海外では通じません。ハローワークは和製英語で、英語圏では、”public employment security office”と訳します。やさしい日本語で伝えるときは、「仕事を紹介するところです。国の役所ですよ。」などと伝えるのがいいでしょう。
伝えるのが難しければ絵や写真に頼る
もし話していて意思疎通がとれなれば、絵や写真を見せるのも一つの手。
やさしい日本語は、日本語に慣れていない人に的確に伝えることがゴールです。手段は言葉でなくても構いません。話していて、伝えたいことが思うように伝わらなかったらお手持ちのスマホやパソコンで絵や写真を見せましょう。
話すときに限らず、マニュアルやお知らせを作るときも言葉よりビジュアルのほうが伝わりやすければ活用してくださいね。
まとめ
やさしい日本語とは外国人やこどもなど、日本語に慣れていない人にも伝わるように配慮した日本語のことです。
やさしい日本語を使うためには、伝えたい言葉に優先順位をつけて、シンプルな言葉で伝えることが重要です。文章にするときは、書いたあとに外国人にチェックしてもらうとブラッシュアップできるでしょう。
より伝わりやすくするためには、相手の日本語習得レベルや文化の違いを理解することを意識してください。日本人にとっての当たり前が外国人の人にとってはそうでないこともあるからです。思い込みを捨てて、相手に寄り添った言葉を選ぶとスムーズに伝えられます。意思疎通が難しい場合は、絵や写真を使って説明するのがいいでしょう。やさしい日本語は、日本語を簡単にすることではなく、日本語が不慣れな人にも伝わることが目的。ビジュアルの方がわかりやすければ、積極的に使いましょう。
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過去に外国人に向けて発行するお知らせや、マニュアル、就業規則などさまざまな翻訳を手掛けてきました。もちろんこれ以外のやさしい日本語翻訳も対応可能ですので、まずはご気軽にご相談ください。